光ケーブルの1芯と2芯の違いとは?それぞれの構造と違いがもたらす影響

光ケーブルの1芯と2芯の違いとは、光ケーブルにおける光ファイバーの数の違いです。
今日の製造業において、IoTの進展やAI技術の導入により、高速かつ大容量のデータ通信は不可欠な要素となっています。
特に、工場のFA(ファクトリーオートメーション)や生産設備のネットワーク構築において、光ケーブルの採用は増加傾向にあるようです。
しかし、光ケーブルと一口に言っても、その種類や特性は多岐にわたります。
そこで、この記事では、光ケーブルの中でも特に多く使われる「1芯」と「2芯」に焦点を当て、それぞれの構造と、それがデータ通信にどのような影響をもたらすのかを詳しくご紹介いたします。
光ケーブルの1芯と2芯とは何か?
光ケーブルとは、電気信号ではなく光信号を用いてデータを伝送するケーブルです。
ガラスやプラスチック製の非常に細い繊維(光ファイバー)を束ね、それを保護するための被覆で覆った構造をしています。
電気信号を用いるメタルケーブルと比較して、光ケーブルは長距離伝送が可能であり、電磁ノイズの影響を受けにくいという特徴があります。
このため、製造業の工場など、ノイズが多い環境でも安定した通信を実現できることから、近年、その導入が加速しています。
光ケーブルにおける「芯」とは、この光ファイバーの数を指します。
つまり、1芯ケーブルには1本の光ファイバーが、2芯ケーブルには2本の光ファイバーが内蔵されています。
2芯ケーブルには、さらに「全二重」と「半二重」があります。
光ケーブルの1芯と2芯の違い
光ケーブルの1芯と2芯は、一見すると些細な違いに思えるかもしれません。 しかし、その構造から導かれる特性は大きく異なり、それぞれが適した用途や導入コスト、そして伝送性能に影響を及ぼします。
ここでは、両者の具体的な違いについて、項目ごとに詳しく見ていきましょう。
構造
光ケーブルの芯数は、内部に収められている光ファイバーの数を直接的に示しています。
1芯ケーブル
1芯ケーブルは、ケーブル内部に1本の光ファイバーが通っています。 この1本のファイバーを用いて、機器間の単一接続を行います。
通常、1本のファイバーで双方向通信を行うためには、波長分割多重(WDM)技術などが用いられます。 なお、WDMとは、異なる波長の光を同じファイバー上で同時に伝送することで、一本のファイバーで送信と受信の両方を実現する技術です。
2芯ケーブル
2芯ケーブルは、ケーブル内部に2本の光ファイバーが通っています。
一般的に、片方のファイバーを送信(Tx)用、もう片方のファイバーを受信(Rx)用として使用します。 こうすることで、独立した光路で双方向通信を行うことが可能です。
用途
芯数の違いによって、用途も異なります。
1芯ケーブルの用途
1芯ケーブルは、一本のファイバーで通信を完結できるため、省スペース化に貢献します。 主に、限られたスペースにケーブルを敷設する必要がある場合や、ケーブルコストを最小限に抑えたい場合に選択されます。
たとえば、マンションなどの集合住宅への光回線引き込み(FTTH)や、一部のセンサーネットワーク、監視カメラシステムなどで利用されることがあります。
2芯ケーブルの用途
2芯ケーブルは送信と受信が独立しているため、データ衝突のリスクが低く、高い信頼性が確保されます。
製造業のFAネットワークやデータセンター、企業内の基幹ネットワークなど、高速かつ安定した双方向通信が求められる環境で広く利用されています。 また、将来的な帯域拡張の可能性を考慮して2芯が選択されることも少なくありません。
コスト
ケーブルの芯数によって、導入コストも異なります。
1芯ケーブルのコスト
物理的に光ファイバーの本数が少ないため、ケーブル自体の製造コストは2芯ケーブルに比べて安価になる傾向があります。
しかし、一本のファイバーで双方向通信を実現するためのWDM対応機器が必要となる場合があり、その機器コストが加わることで、システム全体のコストが2芯システムと同等、あるいはそれ以上になる可能性もあります。
2芯ケーブルのコスト
1芯ケーブルに比べて光ファイバーの本数が多いため、ケーブル自体の単価は高くなる傾向にあります。
しかし、WDMのような特別な技術を必要とせず、一般的な光トランシーバーやメディアコンバーターを利用できるため、機器側の選択肢が広く、結果的にシステム全体でのコストパフォーマンスに優れる場合もあります。
特に長期的には、汎用性の高さがコストメリットにつながる可能性もあります。
伝送距離
光信号の伝送距離は、光ファイバーの種類(シングルモードかマルチモードか)と合わせて、芯数も間接的に影響を与えることがあります。
1芯ケーブルの伝送距離
WDM技術を利用する場合、光の減衰を考慮する必要があり、伝送距離に一定の制限が生じることがあります。
ただし、これはWDM機器の性能や使用する光ファイバーの種類(シングルモードファイバーを使用すれば長距離伝送が可能)に大きく依存します。
2芯ケーブルの伝送距離
送信と受信が独立しているため、理論上は1芯ケーブルと比べて伝送距離に有利・不利はありません。
伝送距離は主に光ファイバーの種類(シングルモードファイバーは数十km以上の長距離伝送が可能、マルチモードファイバーは数百メートルから数km程度)と、使用する光トランシーバーの性能によって決まります。
通信速度
通信速度についても、芯数そのものが直接的に影響を与えるわけではありませんが、システム全体の設計に影響を及ぼします。
1芯ケーブルの通信速度
WDM技術を用いて双方向通信を行う場合、特定の波長帯域を送信と受信で共有するため、理論上の最大通信速度に影響が出る可能性があります。
しかし、現在の技術ではギガビットイーサネットやそれ以上の速度にも対応できるWDM機器が存在します。
2芯ケーブルの通信速度
送信と受信が独立した光路を持つため、理論上、各ファイバーがその性能を最大限に発揮できます。 このため、高速通信環境を構築しやすいといえます。
現在の一般的な光通信システムでは、1Gbps、10Gbpsはもちろん、40Gbps、100Gbpsといった超高速通信も2芯(あるいはそれ以上の多芯)で実現されています。
1芯・2芯、それぞれのメリット・デメリット
光ケーブルの1芯と2芯は、それぞれ異なるメリットとデメリットを持ち合わせています。 これらを理解することは、最適なケーブル選定において非常に重要です。
1芯のメリット・デメリット
まずは、1芯のメリットとデメリットを見ていきましょう。
1芯のメリット
1芯の主なメリットは、次の3点です。
■省スペース
シケーブル内部の光ファイバーが1本であるため、ケーブル自体が細く、配線スペースが限られている場所での敷設に適しています。
たとえば、管路が狭い場合や、既存の配管を有効活用したい場合に有利です。
■ケーブルコストの削減
ケーブル本体の単価は、ファイバー本数が少ない分、2芯ケーブルよりも安価になる傾向があります。
大規模なネットワークにおいて、ケーブルの総延長が長くなるほど、このメリットは大きくなります。
■コネクタ数の削減
接続に必要なコネクタの数が2芯に比べて半分で済むため、接続作業の簡素化や、接続不良のリスク低減につながる可能性があります。
1芯のデメリット
1芯にもデメリットがあり、主なものは次の3点です。
■機器コストの増加
1本のファイバーで双方向通信を行うためには、WDM対応の光トランシーバーやメディアコンバーターなど、特殊な機器が必要となる場合があります。
これらの機器は、一般的な2芯用の機器よりも高価になる傾向があります。
■トラブルシューティングの複雑化
片方向の通信に問題が発生した場合、WDMシステムでは送受信が同じファイバーで行われているため、原因の特定が2芯システムよりも複雑になる可能性があります。
■将来的な拡張性の制限
一本のファイバーで全ての通信を行うため、将来的に通信速度の向上や追加サービスの導入を検討する際に、帯域幅の制約が課題となる可能性があります。
2芯のメリット・デメリット
次に、2芯のメリットとデメリットをご紹介します。
2芯のメリット
2芯の主なメリットは、次の4点です。
■汎用性と互換性
多くの光通信機器が2芯での接続を前提として設計されているため、機器の選択肢が豊富だったり、汎用性が高かったりするというメリットがあります。
このため、異なるメーカー間の互換性も確保しやすいです。
■安定した通信性能
送信と受信が独立した光路を持つため、信号の干渉が少なく、安定した通信性能を確保しやすいです。
高速・大容量通信において、信頼性の高い通信経路を構築できます。
■トラブルシューティングの容易さ
送信と受信が別々のファイバーで行われるため、通信トラブルが発生した場合でも、どちらの経路に問題があるのかを特定しやすく、迅速な復旧につながりやすいです。
■将来的な拡張性
必要に応じて、片方のファイバーを予備として確保したり、将来的に別の用途に転用したりするなど、柔軟なシステム拡張が可能です。
たとえば、既存の伝送速度のままで、もう一方の芯を使って別の信号を流すことも原理的には可能です。
2芯のデメリット
しかし、2芯にもデメリットは存在します。
主なデメリットは、以下の3点です。
■ケーブルコストの増加
1芯ケーブルと比較して、ファイバーの本数が多い分、ケーブル自体の単価は高くなります。
特に長距離や大規模なネットワークでは、総コストに影響が出やすくなります。
■敷設スペースの確保
ケーブルの直径が1芯ケーブルよりも太くなるため、配線スペースの確保が必要になります。
このため、管路が狭い場所では、敷設が困難な場合があります。
■コネクタ数の増加
接続点において、1芯ケーブルの2倍のコネクタが必要になります。
このため、接続作業の手間が増えたり、接続不良のリスクがわずかながら高まったりする恐れがあります。
光ケーブルの種類については、下記の記事もご覧ください。
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まとめ
光ケーブルの1芯と2芯は、その構造と特性によって、それぞれ異なるメリットとデメリットを持ち合わせています。
1芯ケーブルは、省スペース性とケーブルコストの面で有利ですが、特殊な機器が必要となる場合があり、将来的な拡張性に制約が生じる可能性もあります。
一方、2芯ケーブルは、汎用性、安定した通信性能、そしてトラブルシューティングの容易さに優れていますが、ケーブルコストや敷設スペースの確保が課題となることがあります。
どちらの光ケーブルを選択すべきかは、システムの要件、敷設環境、将来的な拡張計画、そして予算によって大きく異なります。
製造現場の技術担当者様は、これらの点を総合的に考慮し、最適な光ケーブルを選択することが、安定した生産活動と事業継続の鍵となるでしょう。